寝るたびに、別の人生が始まるような気がする夜に

重たい夢が、これでもかというほど沁み込んだ布団は、
持ち上げるとずっしりと重たい。

朝、目を覚ましたとき、
体はまるで別の場所から帰ってきたかのように、意味のわからない疲労を抱えている。

まるで、眠っているあいだに、もうひとつの人生を生きていたかのように。

目覚めると、夢は霧散していく。
でも、何かが残っている。
しかし、残っていない。

残っている。が、残っていない。

まるで、手に取った水が、指のあいだから零れ落ちていくように。

夢は、明確な記憶ではない。
けれど、確かに何かが“通り過ぎた痕跡”を残していく。

夢は、啓示でもあり、呪いでもある。
こみ上げるものであり、墜としてくるもの。

ときには、かつての世界に戻されることもある。

もう二度と元には戻らない場所。
ただ眺めるしかできない。
そこには、感情も、後悔も、焦りも、喜びも、悲しみもない。

ただ、無情の世界が、静かに広がっているだけだ。

その夢の中での自分は、
たしかに「自分」であるはずなのに、
「自分でない」存在のようでもあった。

輪郭だけが似ていて、
中身はもうすでに別のものに変わってしまったかのような、
第三者的な“何者か”。

それでも、また私は眠りに戻っていく。
その布団に横たわれば、夢は続く。
霧散したはずの場面が、また再び立ち上がり、私を迎え入れる。

それはもう、一つの定めのようなものだと思っている。

夢のなかで、私は「なぜ生きるのか」と問われている気がする。
誰かにでも、何かにでもなく、
自分自身からの問いかけのような気がするのだ。

答えはわからない。
でも、夢のなかでその問いに立ち会うこと、
そして毎朝、答えの出ないまま目を覚ますこと。

それがたぶん、
私が“世界とつながっている”唯一の実感なのかもしれない。

夢は、記憶でも希望でもない。
けれど、私の中のもうひとつの人生であり、
見えない誰かと交わした約束のようなものかもしれない。

だから私は、また眠りにつく。
また、会いにいく。
誰かではない、自分自身に。

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