私の家は豊かな方ではない。
それに気づかされたのは、小学校に入ってからだ。
私の家にはあまり物がなくて、長く使い古されたものばかり。
使えるところはダメになるまで、トコトン使うという決まりがある。
であるからに、私が新しいものを欲しがろうとしたら、「○○で代用できるじゃない、今あるものを工夫して使いなさい」と言われるのだ。
私にとっては、それだから重要なのであって、代用したら別物になると思っている。
例えば、カレーを作る時に、カレーのルーを代用でシチューのルーを入れるようなものだと感じるのだ。
それは、カレーではないべつの食べ物になってしまう。それくらいの心持ちである。
それに対して、他の皆は新しいものをすぐ買ってもらえる。
うらやましいなぁ……。
私も欲しい。けど、どうあがいても買ってもらえないだろうと、一種のあきらめもある。
他の皆の中で、特段、目立つ子がいる。
その子は、てらてらとした頬でいつも楽しそうだ。
私が見るに彼が着る服は、他の子達と比べると、一段と上等そうな服の質なのである。
シルク生地の滑らかさが違うような感じ。とてもさらさらしている。
それに比べて、私はどうだ。
私と比較したときはその差が明らかになる。
てかてかと擦り切れたような光沢を出す服と比べるとなおのこと。
彼は私と違って裕福なんだろうな。
そんな風に考えてしまう。
――ある時、彼と組み分けでペアになった。
これが彼とファーストコンタクトになるわけだ。
あぁ、いやだ。自分がみじめに感じてしまう。
早くこの時間が終わればいいのに、そう切に願っていたところ。
「ねえ!」彼の元気が伝わるような声で話しかけられた。
裕福だと声もこんなにも変わるのだろうかと、毒づきながらも応答する。
「なに?」
「君って物を大切にしているよね!」
「まぁ……うちの決まりみたいなものだから」
いやみか?あなたは僕の家みたいに豊じゃないよね。そういいたいのか?
「一緒だね!」
――え?
予想外の言葉に、沈黙が流れる。
知らない人に、全くわからない言語で急に話しかけられたような沈黙。
彼の顔を見つめたまま、口をふさぐことすらできないほどに、私は呆然としていた。
何言ってるかわからない。私と、彼が、一緒?
いやいやいやいや!全然違うでしょ!!
脳内が大騒ぎしていると、彼の言葉が続く。
「実は、僕の家ってなかなか新しいもの買ってもらえないんだ。
でも、それだけ同じものを使うから、愛着が持てるようになるから素敵だなって。
最近ようやくわかってきたんだ。
だから、君も同じなんじゃないかなって!」
そう言った彼のてらてらと輝く頬が、夕日がてらてらと輝く夕日に見えた。