「ぴしゃん!」
何が起きたか今私の頭がフル回転して、状況を把握しようとしている。
――そうだ、目の前にいる、彼女に頬を平手打ちされたのだ。
――なぜ?
――わからない。
「あなたなんか、知らない!」そう吐き捨てられたと思いきや、彼女は走り去っていく。
すぐさま追いかけるべきなんだろう。
しかし、わからないまま追いかけて何になる?そう思いながら、じぃんと響く平手打ちされた頬を触れてみる。痛いはずなのに、痛くない。
この肌の熱さからして、腫れていてもおかしくはないだろう。
それでも痛くないのだ。彼女の痛みと比べたら、微塵も痛みを感じないのだ。
痛みがわかるはずなのに、なんと言葉をかけて、追いかけて、引き留めたらいいのだろう。
こんなわからぬ男といるよりも、わかる男といる方がいいのだろうか。
――そうかもしれない。
だか走った。
――なぜ?
――わからない。
――しかし彼女といたいのだ。これが執着というものなのか。
それとも、他の欲なのか。
――やっぱり、わからない。
彼女に追いついた、肩で息をしている。へたり込むような髪の乱れ具合。
あぁ、また苦しめている。いなくなってしまったらいいのだろうか。
彼女は私が追い付いたことに気付いたらしく、
振り返らず、静かに、問いかけた。
「なに?」
あぁ……また何も言えずに、過ごしてしまう。
そうなると、次は彼女の心の戸が「ぴしゃんと!」締め出されるだろうに。