【擬音短編集】むくむくと、そこにいる

修学旅行、ただいま夜。
学校の予定も無事終わって、みんな布団の中にもぐりこんでいる。

どうにも寝付けない俺は、同室である三人の様子を観察することにする。

イノウエは「すぅっ」と布団をふっくらませ、また静かに沈んでいく。
普段から、落ち着きのある様子と、静かな雰囲気を感じさせる動きだ。

サカタは「がさごそ」と布団を騒ぎ立てながら、
「うがうが」と鳴き声のような音を立てている。
活発で思った事をすぐに言う、単純なやつで、何をするにも大袈裟になる。
まぁ、サカタの単純なところは良い所でもあるから、それでいいのだ。
落ち着きがなさそうな動きではある。

二人とも性格を表すような寝方をしている。

最後の一人。
ツキガミは…よくわからない。

じぃ……と名が観ていると、
「むくむく」と動く、
なんというか、
人の動きじゃないような、
なにかが蠢くような、
不気味な雰囲気だ。

より不気味に感じさせたのは、
彼が呼吸して動いているであろう布団の動きから、音が聞こえないのだ。
そこだけ、音がないような空間なのかと感じるくらいに。

――ツキガミとは、普段かかわりがない。
学校にいるときも、気づいたらいない。
いつ、どこで、なにをしているのかもよくわからない。

今回は班分けで、たまたま一緒の班になったのだ。

今日一日、一緒に行動していたが、静かなだけ。
イノウエの落ち着く感じではなく、
ただあるだけのような。
不思議でよくわからない感じ。

――ツキガミが再び「むくむく」とうごめき始めた。
彼は本当にいるのだろうか。
不安になった俺は、自分の布団を出て、恐る恐るツキガミの布団に手を伸ばす。
顔が見えるくらいにこっそりとめくると……

光を吸収せんとする開いた瞳孔と目があった。
驚いて声を上げそうになったが、
金縛りにあったように声が出なかった。

「……何?」
そういった彼の目は、心をわからせない猫の目を思わせるような目だった。

「いや…ツキガミ君は起きてるのかなって思って……」
俺はそう言って言葉を濁すことしかできなかった。

「……そう。僕はもう寝るから。おやすみ」
そう言って再び布団にもぐっていった。

布団に入る姿は、さっきの雰囲気とは違って、「もぞもぞ」と動いているような感じだ。

何かわからない不安を抱えながら、俺は布団の中に潜っていった。

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