【擬音短編集】ダビデ像にはなれないけれど

僕は初めて、ジムというやつに来ている。友人と二人で。
最初は、ムキムキマッチョな人たちばかりなのだと思っていた。
僕がジムに来たきっかけは、友人に言われたからだ。

その日の前日、僕は学生の頃からの付き合いである友人に思い切って相談した。
「マッチョな人たちに囲まれて、細い僕がジムに通うのは恐ろしすぎていく事ができない」と。


そう友人に相談したら、呆れた顔してこう言い放った。
「皆そんな人たちばっかだったら、確かに怖すぎるわな。
一回行ってみたらどうだ?俺もこう見えてジムに通ってるんだぜ」

彼は裾をまくり上げて、腕を見せてくれた。
確かに、筋肉質な腕のような感じがする。でも正直に言うと、ジムに通っているのか?と疑問に思うくらいである。
僕は、生まれてこの方、スポーツをやったことがない。あるのは、体育の授業でやったくらいだ。

僕はもしかしたら、強い偏見を持っているのかもしれない。とそう思った。
彼は僕みたいな、ひねくれものとも分け隔てなく関わってくれる数少ない友人だ。
彼がそういうなら、一度行ってみてもいいのかもしれない。

「じゃあ……。行ってみようかな」
「よし、なら今から行くか!」
「え?いまから?」
「君のことだ。このタイミングで行かなかったら、いつになるかわからないからね。」

確かにそうだ。僕は初めての場所に好んでいかない。
知らない場所に行くことは、抵抗があるから。友人に連れられての方がよっぽどいい。

「じゃぁ……。お願いします。」
「任された!ちょっとジムに体験者連れて行っていいか、確認の電話してくるわ!」
そう言って、スマホを持って席を離れた。

僕は取り残された席でひとり呟いた。

「ガチッとした身体に憧れるなぁ……。」

僕はひょろひょろだから、憧れてしまうのだ。
ダビデ像を作り上げたミケランジェロもきっと、作り上げた作品たちと同じ肉体美に憧れたに違いない。
そういう意味では、僕も彼も同志である。

彼は、生涯そのような身体を手に入れたことはない。
彼の身体の状態は、仕事に侵され姿勢も何もかもボロボロだった。
でも、僕は違う。

僕は正直、暇を持て余すことも多いのだ。
なのに、思うだけで行動できない。なにかあったら、という不安で動けなくなる。
あれほど忙しい彼らと違って、時間があるはずなのに。

そう考えていたら、友人が返ってきた。
「いけるって!早速行こうか」どうやら大丈夫だったらしい。
「……。うん。」この一言だけでもかなり勇気をもったほうだ。自分をほめたたえてあげたいくらいには。

いざ来てみると、ひどい肩透かしにあった。
すてんと勢いよく転びそうになるくらいの勢いだ。

周りを見てみると、僕と同じような体系の人もいれば、肉体がふくよかな体系の人も、なんならおじいちゃんおばあちゃんもいる。

「これなら、僕でもやっていけるかもしれない。
 “ガチッ”と心を固めるには、まだ間に合う。僕にはまだ、時間があるのだから。」

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