「僕は今日、はじめてスケートを体験しました。」
小学生低学年の男の子が、シングルファーザーであるお父さんと二人で、スケートを体験した。そんなお話。
「僕はその日、お父さんと買い物に行きました。ショッピングモールでは、何かイベントをやっていることに気付いて寄ってみると。
そこには見たこともない、氷の世界が一面に広がっていました。
一度だけ雪を振ったことを見た事があって、その時は凄く喜んだ記憶があります。
それとは違った綺麗な感じがありました。
氷が光の反射でピカピカと光っていて、まるで宝石箱のように思えました。
そのうえで、サンタさんが乗っているソリに似た形のクツで滑っている人たちがたくさんいます。
あれを履けば、あんなにも楽しそうに滑れるのかな?
僕は、外に遊びに行く事があまりないのでこういった遊びがあることも知りませんでした。
普段お父さんはお仕事で忙しそうにしているので、僕は一人おうちで過ごすことが多いです。
さみしいけど、お父さんはいつも帰って来た時、元気いっぱいで僕に力を分けてくれるヒーローだから。
寂しさともたたかえるんだ。
氷の一面をしばらく眺めていると、お父さんが、「滑ってみる?」と聞いてくれたので、僕は嬉しくて、うん!と返事をしました。
はじめて履く靴は、普段履く靴と違って大きかった。まるで、長靴みたいにスネのほうまで伸びている靴。
それに、結んでもらったけどちょっと苦しい。
「怪我しないように、シッカリ結ばないとな」ってお父さんが、すごく真剣そうに言いながら結んでくれていたから、大事なことなんだと思う。
お父さんに心配させたくないから、ガマンする。
いざ立って歩いてみると、大きいだけじゃなくて、重い。
一歩一歩がぐらぐらするし、足をひねっちゃいそうな怖い感じもある。
お父さんが「大丈夫だよ」そう言ってもらえて少しホッとする。
お父さんに支えてもらいながら、なんとか氷の上までたどり着いた。
氷の上に乗ってみたのはいいものの、どうやってあんな風に滑れるのかわからない。
駆け抜けるように早く滑っている僕と年が変わらなさそうな男の子もいる。
でも、僕は経つのも精いっぱいだ。
お父さんが、「まずは、ゆっくり歩いてみよう」そう言われて、滑るというよりも歩く感覚なんだ、って知りました。変な感じ。やっぱお父さんは何でも知ってる。すごいなぁ。
一歩歩くと、ちょっと前に身体が進む。もう一歩進んでみる。また少し前に進む。
走る時の感覚と同じで進む感じはあるけれど、スライド?していく感じです。
やっぱ不思議な感じ。
どんどん歩けるようになって、走る感じで、前へ前へと勇み足で進んでみると……。
すてん!と身体が前に投げ出された。
すてんころんと転ぶ、感じじゃなくて、勢いよく転んだ感じ。
僕は慌てて手を出して、顔をぶつけずにすんだ。けど、痛い。
ゴツンとぶつけた感覚ですごく痛い。氷ってこんなにも固いんだ。
お父さんが慌てて駆け寄って、僕を起こしてくれた。
「やっぱり、お父さんは僕のヒーローだ。」
そう思って起こしてもらったら、僕を前に抱えたまま一緒に、次はお父さんがずでんっ!と尻餅をついた。
リンクの外にいた女の子に『だいじょうぶ?』って言われてるお父さんの姿が、
なんだかすごく嬉しくて、思わず笑っちゃいました。
今日は僕のヒーローはお休みだ!