彼はぎょろりぎょろりと周りを見渡している。
新月の暗夜の中、光に注意しているかのように目を光らせている。
どうやら、彼は盗人らしい。
こっそりと忍び込むために細心の注意を払っているのである。
であるからに、見える人からしたら何とも珍妙な姿に思える。
なぜだろう、ひょっとこのようみにえるからだろうか。左右それぞれに見渡し時に、右の時は右目が、左の時は左が大きくなって左右違う大きさになるからか。それとも、緊張している口がすぼんで見えるからだろうか。
どちらにしても可笑しな光景である。
こそりこそりと忍び寄る動きが、滑稽な神楽のように見えてしまう。規則正しく、決まった手順を踏むように……。彼は足を運んでいる。
――おっと、塀を超えて中に入るつもりのようだ。
どこか慌ただしく、情けない姿だ。やはり珍妙さが抜けない不思議な光景。
――おや?彼が慌てている。塀を超えずに戻ろうとしているようだ。
誰かと目が合ったのかな?
先ほどのぎょろりぎょろりと、警戒していたのはなんのためだったのか、私にはわかりませんね。